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東京地方裁判所 昭和26年(ワ)3134号 判決

原告 京浜急行電鉄株式会社

被告 浜田洋太郎

一、主  文

被告は原告に対し、別紙目録および図面表示の(イ)および(ロ)の場所上に存在する別紙目録表示の工作物を収去して、右場所を明け渡せ。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は、原告において金十万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

二、事  実

原告訴訟代理人は、主文第一、二項と同趣旨の判決ならびに担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

「原告会社は品川駅を起点として浦賀駅までの鉄道運輸業を営み、その駅の建物および構内等を施設物として所有するものであるが、昭和二十一年七月一日に被告先代浜田八男に対し、右品川駅構内のうち別紙目録および図面<省略>表示の(イ)および(ロ)の場所(以下本件場所という)を、賃料は一ケ月各金七十五円、期間は同年八月一日から同二十二年七月三十一日(訴状に八月三十一日とあるのは誤記と考える)まで、ただし、期間満了の一ケ月前までに別段の意思表示がなされないときは、さらに一ケ年間更新することと定めて賃貸した。その後、原告会社は同年七月一日に右賃貸借契約の当事者を被告に変更することを承認し、前記賃料を一ケ月各金二百円に増額し、期間を同年七月一日から同二十三年六月三十日までと改めたほかは、被告先代と同一の条件で本件場所を使用させることとし、以後別段の意思表示もなく、引続き被告において別紙目録表示の工作物(以下本件工作物という)を所有し、本件場所を使用して営業中であつたが、原告会社は同二十五年一月二十六日に書面で被告に対し、期間満了と同時に本件工作物を撤去すべきことを求め、期間満了後は本件場所の使用を拒絶する旨の意思表示をしたので、本件賃貸借契約は同年六月三十日の経過とともに期間の満了によつて終了した。ところが、被告は依然として本件工作物を所有して本件場所の使用を継続しているので、原告は被告に対し、本件工作物の収去と本件場所の明渡しを求めるため本訴に及んだ」と述べた。

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として、

「原告の主張事実中、原告会社がその主張のような営業を営み、駅の建物および構内等を施設物として所有していること、被告が本件場所の上に本件工作物を所有して本件場所を占有していることおよび原告主張の昭和二十五年一月二十六日附書面が被告に到達したことは認めるが、その他の事実はすべて争う。すなわち、

(1)  もともと、被告先代浜田八男は、大正十四年九月八日に原告会社から、当時その階下の一隅が原告会社経営の京浜電車終点駅で、その余は貸店舗用の三階建京浜ビル中最良の二店舗を借受け、タバコ、新聞、雑誌、雑貨等の販売を営んでいたところ、昭和四年ごろ原告会社では路線を変更して現在の品川駅構内に乗り入れることとなり、前記建物を事務用ビルに改装するため、同建物内の全店舗に対し他に移転方を求めたが、被告先代に対しては、同人の原告会社との特別な関係から、他の店舗と異つて現金の補償をしない代りに特に本件場所をその代りの場所として貸与し、右終点駅が廃止変更にならない限り相当長期間貸すべく、万一そのような場合には適当の移転先又は相当の補償をするとの申出があつたので、これを承諾し、昭和五年より本件場所に移転し、期間は一応形式だけ五ケ年間として五年毎に更新するという約定で引続き賃借し、原告会社の希望により構内店舗として営業を継続してきたものである。その後昭和二十二年七月一日に被告先代の借受け名義を長男である被告名義に切り替え、被告は原告会社と被告先代間の右契約関係一切を承継したが、期間について単に形式上一年毎に更新することを約したところ、同二十三年六月からは従来の経緯に鑑み、被告先代の賃借当時と同様形式的に五年毎に更新することに定め、引続き賃借してきたのである。

(2)  ところで、本件場所は前記のように品川駅ホームおよび駅構内にあつて、右駅の建物と一体をなす京浜ビルに接続する乗降場の一部であり、その構内には被告経営の店舗のほか幾多の店舗も存在しており、このような駅の建物は、近時、交通機関の単なる乗降の場所というに止まらず、乗客と結び付いたいろいろな施設或は店舗事務室等を含むいわゆる市中のビルデイングともいうべきものとなつたのであり、このような建物と一体をなす本件のような乗降場は法律的にも建物として取り扱われるべきであつて、本件場所の賃貸借はこの建物の一部の賃貸借であり、原告会社において右建物の一部のうち特定の場所を店舗の目的で賃貸し、被告において独立した採算のうえに何ら原告会社から干渉を受けることなく営業を継続し、本件工作物を建設管理し、その改造費用を負担しており、営業による売上金と関係なく、その賃料額が定められていることおよび前記(1) のような従前の経緯からいつて、借家法上の建物の賃貸借というべきである。

従つて、原告会社は正当の事由がない限り本件賃貸借契約の更新を拒むことはできないのであり、原告主張の更新拒絶の意思表示には何ら正当の事由がないから、右意思表示は何らの効力を生ずるものではない。

(3)  仮に、本件賃貸借契約に借家法の適用がないとしても、本件工作物自体が建物であつて、被告は原告会社から建物所有の目的で本件場所を賃借したのであるから、本件賃貸借契約は借地法の適用を受けると解すべきである。従つて、前記(1) のような形式上五ケ年とか一ケ年という短期間の定めは無効であつて、本件賃貸借契約の存続期間は大正十四年又は昭和五年より三十年であるというべきであるから、まだその期間は満了していない。

(4)  仮に、本件賃貸契約に借地法の適用もないとしても、前記(1) のように、原告会社と被告先代との間には、品川駅の廃止変更がない限り半永久的に賃貸する。もし明渡しを求めるときは相当の補償金又は移転先を提供するという特約があつて、前記のように被告は右契約関係一切を承認しており、原告主張の更新拒絶の意思表示は右特約に違反しているから、被告には明渡義務がない。

(5)  仮に、右特約の存在が認められないとしても、前記(1) のように本件賃貸契約はその期間が昭和二十三年六月から五ケ年間に延長されたから、まだその期間は満了していない。

(6)  仮にそうでないとしても、原告会社と被告間には本件賃貸借契約につき、その期間を毎年更新するという特約があり、また、本件賃貸借契約は戦後の特殊な形態に属し、単なる民法上の賃貸借ではないから、原告会社が何ら正当の事由がないのに更新を拒絶することは権利の濫用であり、いずれにしても原告主張の更新拒絶の意思表示は何らの効力をも生じない。

(7)  さらに、原告会社と被告間には営業時間および廃業、休業その他営業に関し変更をしようとする場合は、協議のうえ決定するという特約があり、この特約は一切のことを協議のうえ取りきめる趣旨のものであつて、原告主張の更新拒絶の意思表示は右特約に違反している。仮に、原告会社において一方的に終了させることができるとするならば、前記(1) のように被告において大正十四年以来賃借人として信義に従い誠実に履行してきたものを一方的に終了させることができるという点において信義誠実の原則に反する無効の契約条項であるというべきである。

結局いずれの点よりしても、原告の本訴請求は失当である。」と述べた。

<立証省略>

三、理  由

一、証人河野俊雄の証言に徴し真正に成立したと認められる甲第二号証の一、二および同号証の四ないし七に同証人の証言を考え合せると、原告会社は昭和二十一年七月一日に本件場所を、賃料は一ケ月各金七十五円、期間は同年八月一日から同二十二年七月三十一日まで、ただし、期間満了の一ケ月前までに別段の意思表示がなされないときはさらに一ケ年間更新することと定めて被告先代浜田八男に賃貸したこと(本件賃貸借契約の当初の当事者が原告会社と被告先代であつて、その目的物が本件場所であることは当事者間に争いがない)が認められる。

そうして、その後原告会社が昭和二十二年七月一日に本件場所の賃貸借契約の賃借人である当事者を被告に変更することを承認したことは被告の明らかに争わないところであり、成立に争いのない乙第一、二号証によれば右賃貸借契約は賃料一ケ月本件場所の(イ)、(ロ)につきそれぞれ金二百円、期間は昭和二十二年七月一日から同二十三年六月三十日まで、ただし右期間の満了一ケ月前までに別段の意思表示がなされないときはさらに一ケ年間契約は更新されるという条件であつたことが認められる。

二、被告は右賃貸借契約について借家法の適用があると主張するのでこの点について検討しよう。

原告会社が品川駅を起点として浦賀駅までの鉄道運輸業を営み、その駅の建物および構成等を施設物として所有していることおよび本件場所が右品川駅ホーム及びその構内にあつて、被告先代および被告が前記契約当時から本件場所で新聞、雑誌、食料品、雑貨の売店営業を継続していることは当事者間に争いがなく、前記契約当初から本件工作物の位置が一定しており、被告においてこれを建設管理し、その改造費用を負担していたことおよび前記賃料額は被告の営業による売上高とは関係がないことは原告において争わないところであり、また本件場所が前記品川駅の乗降場の一部であることは被告の自ら認めるところである。そうして、成立に争いのない乙第一、二号証によれば、本件賃貸借契約においては駅構内において特に火気の取扱いに注意し、掃除その他に関しすべて駅長の指揮に従うことと定められていることが認められ、さらに、検証(第一、二回)の結果によると、前記品川駅は地下一階、地上三階(二階および三階は一部)よりなる京浜ビルデイング(以下京浜ビルという)内にあつて、その三階建の部分は駅事務室(出札所を含む)、案内所等に充てられ、一階の部分の屋上を利用して、電車軋道が敷設され、プラツトホーム(コンクリートのたたき)および改札口等が設けられていること、右プラツトホームの外囲は電車の出入のため開放されている南側の部分を除いて、外見上同ビルの二階に接続するコンクリートの外壁で囲まれていること、本件場所のうち(イ)の場所は右プラツトホームに挾まれた軋道の末端に接着したプラツトホームの一小部分であり、(ロ)の場所は右プラツトホームに接続して同ビル二階より階下に通ずる品川駅中央階段の踊場(コンクリートのたたき)の一小部分であること、右品川駅構内には被告経営の店舗のほかにも店舗が存在し、同ビル一階および地階には京浜百貨店があること、京浜ビルのうち二階および三階の部分を除く部分にはトタン又はガラン葺の屋根が架設されていること。本件工作物はいずれも本件場所の上に木造で、その土台をコンクリートで固め、(ロ)の工作物については腰板の部分を煉瓦で積み上げ、いずれも釘打ちのうえ組立てられているが、その屋蓋部はいずれもベニヤ板ないしは同様の薄い板で掩われているに過ぎず、その三方に窓が設けられていることが認められる。

そこで、本件場所が右のような事実に徴して、借家法第一条の二にいう建物といえるかどうかについて考えてみると、本件場所のうち(イ)の場所は前記認定のようにその外囲の三方を外壁に囲まれ、且つ屋蓋を有する品川駅プラツトホームの一部ではあるが、本来右プラツトホームは原告会社がその経営する電車路線のために前記京浜ビルの一階屋上を利用して設けた施設物であるから、その性質上主として、電車の発着場ないし乗降客の通路として設けられているものということができ、しかも、前認定のように、右(イ)の場所は前記京浜ビルの一階屋上をなすコンクリート平面の一小部分に過ぎないのであるから、右(イ)の場所がその構造と使用上の機能において独立の建物又はその特定した一部分と同等のものを有するとは到底いうことはできない。また、(ロ)の場所は前記認定のように、右プラツトホームに接続して前記京浜ビルの二階より階下に通ずる中央階段踊場の一部ではあるが、右階段踊場も原告会社が、その経営する電車路線のために設けた施設物の一部であるから、その性質上、主として、乗降客の通路として設けられているものということができ、しかも前記認定のように、右(ロ)の場所もまた、前記中央階段踊場をなすコンクリート平面の一小部分に過ぎないのであるから、右(ロ)の場所もまたその構造および使用上の機能からいつて独立の建物又はその特定した一部分と同等のものを有するとは到底いうことができない。従つて、本件工作物の位置、建設管理状況および改造費用の負担区分、本件賃料額と営業による売上高との関係ならびに前記品川駅構内および京浜ビル内の店舗の状況が前記のようであつて、且つ本件賃貸借契約について被告主張のような経緯が仮にあつたとしても(後に認定するように従前の経緯が必ずしも被告主張どおりだとは認め難い)、このことだけで本件場所が借家法第一条の二にいう建物であるとは解し難く、被告のこの主張は採用の余地がない。

三、次に、被告(3) の主張について考えると、本件場所のうち(イ)の場所が前記プラツトホームの一部で、(ロ)の場所が前記中央階段踊場の一部であることは前認定のとおりであるから、本件場所はその形状からいつて、借地法にいう建物所有を目的とする賃借権の目的物であるとは到底いうことができないし、また、前記甲第二号証の四ないし七、乙第一、二号証に証人河野俊雄の証言を考え合せると、本件賃貸借契約は本件場所で建物を所有することを内容とするものではなく、むしろ、本件場所で被告が前記営業をすることを主たる内容とするものであることが認められるから、本件賃貸借契約について借地法の準用があるとも解し難い。その他被告が本件場所を建物所有の目的で借り受けたと認めるに足りる証拠はないから、仮に本件工作物が被告主張のような建物であるとしても被告の前記主張は採用し難い。

四、さらに、被告の(4) の主張について考えてみると、証人国松卯吉の証言および被告本人の供述中右主張に副う部分は、前記認定のような本件場所の構造および位置からいつて、直ちに信用できないし、他に右主張事実を肯認するに足りる証拠はないから、被告のこの主張も採用しない。

五、また、被告の(5) の主張事実についても、昭和二十三年六月に本件賃貸借契約の期間が五ケ年間に延長されたことは四と同様これを認めるに十分な証拠はないから、この主張もまた採用し難い。

六、次に、被告の(6) の主張について考えると、先ず、本件賃貸借契約についてその主張のような特約があつたことは被告の立証しないところであり、また、本件賃貸借契約において原告会社がその更新を拒絶することができるのは正当の事由がある場合に限ると解すべきほどの特別の事情は認め難く、仮に正当の事由なくして更新を拒絶したとしても、これを目して、直ちに権利の濫用であるとは断ぜられないから、この主張もまた採用の余地がない。

七、なお、被告の(7) の主張について考えてみると、先ず、その主張のような一切のことを協議のうえで決定するという特約があつたことは、被告の立証しないところであり、前記乙第一、二号証によつて認められる被告主張の営業時間その他の変更に関する特約はむしろ、専ら営業人である被告について存する事由に基き営業時間その他営業に関し、変更をしようとする場合について定められたものと解するのを相当とする。また、本件賃貸借契約について原告会社において一方的にこれを終了せしめることができるという契約条項が信義誠実の原則に反すると解すべきほどの事情は認め難いから、被告のこの主張も採用の余地がない。

ところで、原告会社が昭和二十五年一月二十六日に書面で被告に対し、期間満了と同時に本件工作物を撤去すべき旨の意思表示をし、右意思表示が被告に到達したことは当事者間に争いがなく、右撤去を求めた意思表示は本件賃貸借契約の更新を拒絶する意思表示であると解するのを相当とするから、本件賃貸借契約は右意思表示により昭和二十五年六月三十日の経過とともに期間満了によつて終了し、被告は原告会社に対し本件場所を原状に復して返還すべき義務があるものといわなければならない。そうして、被告が本件場所の上に本件工作物を所有し、本件場所を占有していることは当事者間に争いがないところであるから、被告は本件工作物を収去して本件場所を原告会社に明け渡さなければならない。

従つて、原告の本訴請求は正当であるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 加藤令造 石橋三二 西村法)

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